ピタゴラスと「天球の音楽」――宇宙が奏でる、見えない響き
宇宙に、音があるとしたら――
それは耳に聴こえるものではなく、魂が感じるものかもしれません。
古代ギリシャの哲学者ピタゴラスは、音と数と宇宙の関係を見つめながら、ひとつの壮大な思想にたどりつきました。
それが「天球の音楽(Music of the Spheres)」です。
ピタゴラスは、弦の長さと音の高さの関係を研究し、心地よく響く音の間には美しい整数比が存在することに気づきました。
たとえば:
これらはすべて、自然の中に存在する調和。
そしてピタゴラスは、この「調和の数理」が音楽だけでなく、宇宙全体にも宿っているのではないかと考えたのです。
当時の宇宙観では、地球を中心に、月・太陽・惑星・恒星が「透明な天の球(スフィア)」に固定され、それぞれの軌道で回っていると信じられていました。
ピタゴラス派は、
そして、すべての天体の音が重なり合い、宇宙全体でひとつの壮大なハーモニーを奏でている――それが「天球の音楽」という思想です。
この音楽が聴こえないのは、「常に鳴っているからだ」とピタゴラス派は説きました。
たとえば、魚が水の中にいることに気づかないように、私たちはこの宇宙の響きに生まれたときから包まれているため、聴くことができないのだと。
キケロもこう書いています:
「人間はこの宇宙の音楽を聴いていない。それはあまりにも永遠に、あまりにも完全に響いているからである。」
この考え方は、のちの哲学者や科学者たちにも大きな影響を与えました。
この「musica mundana」こそが、天球の音楽=宇宙の音楽です。
現代の私たちは、宇宙の音を耳で聴くことはできないかもしれません。
けれど、魂の深いところでは、何かが静かに共鳴していると感じる瞬間があります。
それは、528Hzの癒しの音に包まれたときかもしれない。
それは、風の音や、星の瞬きのようなピアノの旋律に触れたときかもしれない。
楽器が奏でる音色のひとつひとつが、宇宙の調和を思い出すための、小さな扉のように思えます。
次回は、「音楽は世界の本質を表す唯一の芸術」と語ったショーペンハウアーの思想をもとに、
“なぜ人は音楽に涙するのか”――音と意志の哲学へと旅を進めていきます。
どうぞ、響きの奥にある真理に耳を澄ませながら、お楽しみください。